帝国年代記〜催涙雨〜

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No Titleおまけ


おまけ

 おろした武器を鞘に収めて、シーシアスはアメジストに詰め寄った。
「姫さん大丈夫!? 怪我とかしてない?」
 その必死な様子に、思わず笑いがこみ上げてくる。
「ちょ、なんで笑うのさ!」
「ご、ごめんなさい……ふふ、でもあまりに必死なものだから。でも、ありがとう。私は大丈夫よ、どこも怪我なんてしていないし、とても助かったわ」
 そう言ってやると、シーシアスはほっとした様子で胸をなでおろす。
「でもシーシアス、あなた風の術なんていつ覚えたの?」
「は? なにそれ」
 シーシアスはぽかんとアメジストを見つめる。
 見知らぬ青年とアメジストにシーシアスが割って入った瞬間、風が巻いた。
 アメジストやサジタリウスが使う『風の刃』のような攻撃性はなかったが、あれは間違いなく、シーシアスが使った風の術だ。その証拠に、シーシアスの周りに魔力の残滓がある。
 ためしに風精に助力を頼んでみると、確かにアメジストの言うことは聞いてくれたが、若干『嫌がった』感じがした。アメジストがもともと火精のほうが相性がいいということを除いても、こんな現象は初めてだった。
「シーシアス、あなた無意識でやったの? そうなのね?」
「だっから、何の話? オレにも分かるように言ってくれないかなあ」
 眉をひそめるシーシアスの手を取り(なぜかシーシアスが赤面した)、アメジストはさらに言い募る。
「あなた、さっき術を使って私を助けてくれたのよ、間違いないわ。きっとあなたは風精に好かれているのね。ああ、面白いことになってきたかも! さっそくサジ様に教えなくちゃ」
「いやああああやめて姫さんそれだけは嫌! あの人怖いもん!」
 必死の形相のシーシアスを見て、そういえばサジ様とシーシアスは話したことがあったかしら、と首を傾げる。
「いや、話したことないよ、話したことないけどあの人は怖い! 何が怖いって目が怖いもん!」
……ちょっとかわいそうになってきたので、サジタリウスに話すのはしばらくやめておこう、とアメジストは思った。

 その後、シーシアスがどうなったかは神のみぞ知る。



「そういえば、シーシアス。どうしてあそこにいたの? あそこは、私の一族の領地だから、一応立ち入り禁止なのだけれど」
 後日、シーシアスにあった時に出てきた純粋な問いに、シーシアスはあわあわと視線をあちこちにやり、……照れたように笑った。
「えっとー……迷った?」
 だって無駄に広いんだもんこの城、とぶつぶつつぶやくシーシアスを尻目に、アメジストは笑いをこらえるのに一苦労だった。


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