帝国年代記〜催涙雨〜

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Cadence.<カデンツァ>


 今が幸せか? と尋ねられれば、幸せだ、と即答できる自信がある。

 そりゃあ、戦いの日々は疲れてしまうし、口さがない侍女たちからはイキオクレ、なんて陰口も聞こえてくるけれど。
 私は幸せだと思う。
 可愛い可愛いあの子と一緒に居られて、守ることができるのだから。

……それは、たぶんあいつも同じかな? 二人で同じ思い、してきたもんね。



 何年前だったか、一緒に陛下とお会いしたときから――



 護衛兼遊び相手として城に上げられた私とリチャードが見たのは、まるで鏡に映したかのような二人の子どもたち。

「私は、ライブラ」
「私は、アメジスト」
 目の前に立っている瓜そっくり、ではなくて瓜二つの双子ちゃんに驚いたっけ。服装も、髪型も、なにもかもが一緒。理由は後で知ることになるんだけど。
 一応自己紹介はされたけど、最初は本気でわからなくって、リチャードとふたりでかなり悩んだような気がする。
 でもそのうち、だんだん見分けられるようになってきて。といっても二人一緒に居るときだけで、ばらばらになっちゃうとどっちがどっちだか分からないのは変わらないんだけどね。
 あの時は楽しかった。一緒に勉強したり、花輪つくって遊んだり。
 巣からおちた鳥の雛を戻しに行ったら、木から落っこちたりとかもしたっけ。

 でも、そんな楽しいひと時もいつかは終りを告げる。

 ライブラ様が亡くなられた。
 それも、アメジスト様と間違われて殺された。

 もともとそっくりな双子だった上、服装や髪形が同じ、そしてよくお互いになりきって遊んでいたから、そのせいもあったんだと思う。
 残されたアメジスト様の嘆きようは酷かった。あのときのことを思い出すと、今でも胸が締め付けられるように苦しくなる。
 何日も、何日も。ずっとライブラ様の棺にすがって嗚咽を漏らしていた。
 どんな気持ちだったのだろう。生まれたときからずっと一緒に過ごしてきたきょうだいを亡くすというのは。
……私はひとりっこだから、わからない。きょうだいがいたとしても、分かりたくもないけど。
 リチャードと二人で説得して、ライブラ様を見送って。でもそのあとすぐに、アメジスト様は遠いところへ行くことになっていて。それを拒絶したアメジスト様が一人で走っていってしまったときにはさすがに青ざめたわ。
 だって、ライブラ様が亡くなられたばかりでアメジスト様が一人になっちゃったら……いつ魔の手が伸びるかわからないでしょう? 今度は間違いようもないわけだし。
 慌てて探し回って、やっと見つけて。離れたくない、って思いっきり泣いた。

 アメジスト様がいなくなってから、しばらく二人でぼうっとしてた。
 今までやってきたことが一気に無くなってしまったから、無気力状態になっちゃってたんだと思う。
 リチャードも、会うたびにため息ついちゃってて。だから思ったの。アメジスト様が帰ってこられないなら、私たちが会いに行けばいいんだって。
 頑張って強くなって、一緒にアメジスト様に会いに行こう。そう言ったらリチャードもそうだな、なんていってすごい頑張ってた。
 結局、会いに行く前にアメジスト様が帰っていらしたから、目的は果たされなかったけど。

 そういえば、いつからだろう。弟のように思ってたリチャードがそう思えなくなったのは。
 いつの間にか背も私より高くなって、力でも負けるようになっちゃって。
 オマケに髪の毛まで伸ばし始めて。願掛け、とか言ってたけどそれ絶対アメジスト様のためよね……しかも女の私よりもきれいな髪で感じ悪いったら。ってこれはやつあたりだけど。
 はっきり言ってリチャードは、モテる。見た目だっていいし、なんと言ってもエリート。中身は結構ヘタレだけどね。
 私なんて、眼中にないんだろうなあ。第一、私の方が年上だし、家同士も仲、あんまりよくないし。
……アメジスト様には、感づかれてる気がしないでもないけど。でも私もアメジスト様が誰を想っているか、なんとなく分かっているからお互い様、かしら。
 リチャードもかわいそうに。あなたの大事な大事なお姫さまは、別の人にご執心よ。あきらめなさい。

 やっぱり私は幸せなんだと、心から思う。

 少なくとも今は、みんな一緒にいられるから。
 リチャードに習って、私も願掛けしてみようかしら?……なんてね。

 願わくば、この楽しいときが出来るだけ長く、続きますように。


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