トゥフカ・サーガ〜約束の地〜

モクジ

  始まりの調べ  

 この世界には、五つの力ある石があるといわれている。
 ひとつは、火を司る紅玉。
 ひとつは、水を守る青玉。
 ひとつは、地をしろしめる黒珠。
 ひとつは、風を支配する白珠。
 そして、黄の金剛石。
 これらの石はあまねく世界に散らばり、すべての事象を司るという。
 石をすべて手中に収めたものは、この世界を手中にできると言い伝えられていた。



 緑なす平原。
 地平線に向かって伸びる街道に、二つの人影があった。
 一つは褐色の肌に銀色の髪、赤い目をした青年。もう一つは青い髪に緑色の目の少年。二人とも旅装束を身につけているところから、おそらく旅人であろう。
 二人は地図をはさんで何事か話し合っていたが、ふと青年の方が顔を上げ、ある方向を向き、目を眇めた。
 そこにはなにもなく、ただ風がやわらかく吹いているだけだった。
 少年が青年を呼ぶ。青年は振り返り、謝るように片手をあげた。


 石畳の街。
 貴族たちの屋敷が連なるその場所のひとつに、人影があった。
 人影は四つ。
 一人は白皙の肌にゆるく波打つ黒髪を背中に流した若い女性。
 一人は精悍な顔つきをした、中年の黒髪の男性。
 一人は柔和な顔つきの、やはり中年の金髪の女性。
 そしてもう一つの影は、黒に近い茶髪を二つに分け結い上げた幼い少女。
 その四つの人影ははらはらと、しきりにある方向を気にしている。
 やがてその方向に一つの人影が現れる。
 少し薄汚れた、青みがかった銀髪に青い目の青年。
 その青年を見た少女が歓声を上げて駆け寄る。遅れて若い女性も。
 少女がいきなり抱き着いたことでよろめいた青年は、笑って少女の頭に手を置く。若い女性に何事かささやき、青年は二人を連れて中年の男女の前に歩いてきた。
 三人の視線が交錯する。
 そして青年は、二人の男女に向かって深く、頭を下げた。


 のどかな農村。
 ある家の庭先で、赤っぽい茶髪に緑の目の少年が、がっしりとした体格の、やはり赤っぽい茶髪の中年の男にこき使われている。
 中年の男は斧を振りかぶり、薪を割る。少年は薪を集めて束ねる。
 薪の山が出来上がると、中年の男は少年に薪を教会へ運ぶように言いつける。
 少年は不満げに顔をしかめ、あれこれ文句を言いながらもせっせと薪の山を教会に運び込む。
 教会の中には、金髪の少女がいた。入ってきた少年に気がついて振り向き、笑いかける。
 そして少年に駆け寄り、一緒に薪を運び始めた。


 金髪の少女を軸に交錯する、幾多もの運命。


 彼女たちの物語は、今、始まる――
モクジ
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